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キリンビールが「フリー」を発売

アルコール度数がさらに低いビール飲料の需要が高まる中、2009年4月にキリンビールから発売されたのが、ビール風味飲料である「フリー」である。この製品の最大の特徴はアルコール分が全く含まれていないことであり、ビール酵母を使わないことにより世界で初めてこれを実現した(「日本経済新聞朝刊」2009.1.10)。

発売時より販売好調であり、製造する工場では一部の休日を返上し生産量を増加した。当初この製品はスポーツ後や運転者の飲用を想定していたが、酒を控える必要がある妊産婦らにも購買層が広がり、一部スーパーなどで品切れの店も出た(「日本産業新聞」2009.5.15)。首都圏のコンビニエンスストアの売り上げデータを蓄積、分析した日経CVSレシートデータによると、性別年齢層別では若い女性のノンアルコールビールの購入比率が12.9%とビール(同7.3%)や発泡酒(同8.0%)に比べると高く、アルコールのゼロ表記により若い女性という新たな需要を掘り起こしたと言える(「日本流通新聞」2009.7.6)。

「フリー」の好調を受け、アサヒビールも2009年9月からアルコール分を含まないビール風味飲料「ポイントゼロ」を発売した(「日本経済新聞朝刊」2009.7.15)。「フリー」の発売前はアサヒビールの「ポイントワン」がビール風味飲料でシェアトップであったため、「フリー」に奪われたシェアを奪い返すことを狙ったのである(「読売新聞」2009.8.15)。

また、アサヒビールに続いてサントリービールが「ファインゼロ」を、サッポロビールが「スーパークリア」を両社とも2009年9月に発売した(「日本経済新聞朝刊」2009.8.19,2009.8.28)。「ファインゼロ」は、麦汁を発酵させないことでアルコール分を完全にゼロにし、加えてアロマホップを100%使用することで、香りを爽やかに仕上げた。対して「スーパークリア」の特徴は、消費者の健康志向を意識して糖質を抑え、カロリーも従来商品に比べて四割近く下げたことである。こうしてビール製造大手の四社が2003年と同じくビール風味飲料市場に新製品を発売した。

富士経済「2021年 食品マーケティング便覧 No.2」のデータによると、2009年度のノンアルコールビールの総販売額は前年比で161.7%、2010年度のノンアルコールビールの総販売額は前年比で148.9%と、二年連続で大幅な伸びを見せた。2008年度のノンアルコールビールの総販売額が前年比で84.5%と減少していたことを考えると、アルコール分を含まないキリンの「フリー」の登場はノンアルコールビール市場の大きな転換点と言える。

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