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ノンアルコールビール市場の推移

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ノンアルコールビールの市場は、ここ10年余りで激増していると言われています。その市場の推移と、なぜ市場が伸びたのかを本記事では解説します。

ノンアルコールビール市場の定義

まず、本記事では「市場」の定義付けから行います。ノンアルコールビールにおける「市場」とは、とある理由より一般的に業務用でなく家庭用を指すこととします。その理由とは、「2021年 食品マーケティング便覧 No.2」に記載の通り、ノンアルコールビール製品の業務用比率が低いからです。確かに、居酒屋等でノンアルコールビールの販売は増えているように見えるものの、飲んでる人を見かけたことは非常に少ないように思えます。

データの集計方法

次に、データの集計方法です。ノンアルコールビール市場規模を表す年度別販売額に関しては、国内シンクタンクの富士経済より提供された、「2021年 食品マーケティング便覧 No.2」の「ノンアルコールビール」を対象とする統計データを使用しました。

ノンアルコールビール市場規模の推移

それでは早速、2006年から2019年までの14年間の市場の推移を確認してみましょう。

ノンアルコールビールの市場規模推移(富士経済「2021年 食品マーケティング便覧 No.2」より著者作成)

図を見ていただいて分かる通り、2006年から2019年までの14年間で市場は約八倍と激増しています。特にキリンの「フリー」が発売された2009年からの伸び率が大きいです。

ちなみに作成した市場推移の規模は、販売量ではなく販売額を使用しています。市場規模を販売額で表す理由は、正しい市場の規模を把握するためです。販売量は、製品の値下げ等により販売量が増加しても販売額が変わらない可能性が存在するため、正しい市場規模を表すデータとして妥当ではないのです。

加えて、出荷量はメーカーベースでの計測となるため、市場で消費者が製品を購入しているか不明であり、これも正しい市場規模を表すデータとして妥当ではないと考えられます。以上より、本記事においては市場規模を販売額で表すこととします。

なぜノンアルコールビール市場は伸びたのか

続いて、なぜ市場が伸びたのかの解説です。この市場の増加の背景には、大きく分けて二つの理由があると考えられます。

一つ目の理由

一つ目の理由は、飲酒運転の厳罰化や健康志向の高まりによる需要の増加です。アルコール絡みでは、2002年6月と2007年9月に道路交通法の大きな改正があり、飲酒運転の厳罰化がされました。これにより、お酒を楽しみたいけどアルコールを摂取できないドライバーに対する、ノンアルコールのドリンクに対する需要が増加したのです。

また昨今では、お酒を飲まない生き方を楽しむ「ゲコノミスト」や、アルコールの健康に対する懸念からあえて禁酒日を設ける人の増加等、健康志向の高まりによるノンアルコールのドリンクに対する需要が増加していると言われています。

二つ目の理由

二つ目の理由は、ノンアルコールビールを製造する業者の利益率が高いからです。

ノンアルコールビールは、酒税のかからない「清涼飲料水」に分類されます。その割には、その他の「清涼飲料水」より販売価格が高いことが多いです。これは、ノンアルコールビールが清涼飲料水というよりは、お酒からアルコールを抜いたものという認識があるからであると考えられます。

ちなみに、完全ノンアルコールビールの先駆けである「フリー」が発売した年のキリンホールディングスの2009年12月期の連結経常利益は、従来予想を約70億円上回り、前の期比46%増の約1,500億円でした。この利益は過去最高の数値であり、酒税がかからず採算の良い「フリー」のヒットが寄与したと分析されています(「日本経済新聞朝刊」2010.1.7)。実例からも、ノンアルコールビールを製造する業者の利益率が高いことは分かります。

結果として、販売量が減少し続けるビール事業の代替策として、各ビール製造業者が成長市場かつ利益率の高いノンアルコールビール事業に力を入れることは当然です。そのため、毎年切磋琢磨し、ノンアルコールビールの既存製品の改良や新製品の発売が進んだことからも、市場が伸びている理由として説明できるのです。

【参考】2021年 食品マーケティング便覧 No.2

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