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ノンアルコールビールの歴史 ~道路交通法の再度改正とフリーの発売(2007年9月1日~)~

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道路交通法の再度改正

2003年以降で「ノンアルコールビール」が再度話題に上がるようになったのは、2007年9月の道路交通法改正からである。これにより飲酒運転や酒気帯び運転が厳罰化され、さらにドライバーに酒を勧めることも刑罰の対象に加わった。この改正は、福岡市東区で幼児3人が飲酒運転の犠牲になった事故などを受け、警察庁は道路交通法で罰則の対象になっている「酒気帯び運転」の基準値の引き下げが可能か、本格的な検討を始めたことに端を発する(「朝日新聞」2006.9.10)。この事件により飲酒運転が社会問題化されたことで、郊外の飲食店での売上不振が鮮明となった。

これを受けすかいらーくグループのジョナサンは、当時扱っていたアルコール度数0.5%の製品から、度数が0.06%未満のノンアルコール飲料「モルッティ」を2007年3月に切り替えた。この0.06%未満という数値はジュースなど通常の清涼飲料水と同程度である(「日本経済新聞朝刊」2007.3.7)。

大ヒット製品「フリー」の発売

こうしてアルコール度数がさらに低いビール飲料の需要が高まる中、2009年4月にキリンビールから発売されたのが、ビール風味飲料である「フリー」である。この製品の最大の特徴はアルコール分が全く含まれていないことであり、ビール酵母を使わないことにより世界で初めてこれを実現した(「日本経済新聞朝刊」2009.1.10)。発売時より販売好調であり、製造する工場では一部の休日を返上し生産量を増加した。当初この製品はスポーツ後や運転者の飲用を想定していたが、酒を控える必要がある妊産婦らにも購買層が広がり、一部スーパーなどで品切れの店も出た(「日本産業新聞」2009.5.15)。首都圏のコンビニエンスストアの売り上げデータを蓄積、分析した日経CVSレシートデータによると、性別年齢層別では若い女性のノンアルコールビールの購入比率が12.9%とビール(同7.3%)や発泡酒(同8.0%)に比べると高く、アルコールのゼロ表記により若い女性という新たな需要を掘り起こしたと言える(「日本流通新聞」2009.7.6)。

「フリー」の好調を受け、アサヒビールも2009年9月からアルコール分を含まないビール風味飲料「ポイントゼロ」を発売した(「日本経済新聞朝刊」2009.7.15)。「フリー」の発売前はアサヒビールの「ポイントワン」がビール風味飲料でシェアトップであったため、「フリー」に奪われたシェアを奪い返すことを狙ったのである(「読売新聞」2009.8.15)。また、アサヒビールに続いてサントリービールが「ファインゼロ」を、サッポロビールが「スーパークリア」を両社とも2009年9月に発売した(「日本経済新聞朝刊」2009.8.19,2009.8.28)。「ファインゼロ」は、麦汁を発酵させないことでアルコール分を完全にゼロにし、加えてアロマホップを100%使用することで、香りを爽やかに仕上げた。対して「スーパークリア」の特徴は、消費者の健康志向を意識して糖質を抑え、カロリーも従来商品に比べて四割近く下げたことである。こうしてビール製造大手の四社が2003年と同じくビール風味飲料市場に新製品を発売した。富士経済「2021年 食品マーケティング便覧 No.2」のデータによると、2009年度のノンアルコールビールの総販売額は前年比で161.7%、2010年度のノンアルコールビールの総販売額は前年比で148.9%と、二年連続で大幅な伸びを見せた。2008年度のノンアルコールビールの総販売額が前年比で84.5%と減少していたことを考えると、アルコール分を含まないキリンの「フリー」の登場はノンアルコールビール市場の大きな転換点と言える。

ビール製造大手四社のシェア争いが激化

また、市場においてビール製造大手の四社のシェア争いが激化したのもこの時期である。

2010年4月にはキリンが、「休肝日」という「アルコールメーカーで初めてのキーワード」を商品コンセプトに取り入れたビール風味飲料「休む日のAlc.0.00%」を発売した(「日本産業新聞」2010.5.13)。加えて、アサヒビールもアルコール分0.00%のビール風味飲料「ダブルゼロ」を2010年8月に発売した。この製品の特徴は、製造工程で酵母を使用せず、発酵の工程を経ないためアルコールが生成されないことと、麦汁を使用せず、「麦芽エキス」を用いることで、カロリーもゼロにしたことである(「日本流通新聞」2010.5.26)。同じく2010年8月には、サントリーがアルコール度数と糖質、カロリーの三つをゼロとしたことを特徴とするビール風味飲料の新商品「オールフリー」を発売した。この商品は予想を大幅に上回る注文で販売見込みが当初計画の二倍に増えたため、一週間で生産が追いつかなくなった(「日本経済新聞朝刊」2010.8.11)。サッポロも2011年3月に麦芽100%の麦汁にアロマホップを75%以上と、ビール同様の原料を使用したアルコール度数ゼロのビール風味飲料の新商品である「プレミアムアルコールフリー」を発売した(「日本経済新聞朝刊」2011.2.3)。シェア争いで他社に後れをとっていたアサヒビールも、2012年2月に水あめなどの糖類を中心に味つけし、麦汁の余分な甘みがなくなることでよりビールに近づけた「ドライゼロ」を発売した(「朝日新聞」2012.1.11)。

市場の大幅な伸び

このように、ビール製造大手はアルコールが全く含まれていない新製品を相次ぎ発売した。結果として、富士経済「2021年 食品マーケティング便覧 No.2」のデータによると、2011年度のノンアルコールビールの総販売額は前年比で115.2%、2012年度のノンアルコールビールの総販売額は前年比で122.5%と、引き続き二年連続で大幅な伸びを見せた。

市場がこの時期に一貫して大幅な拡大を記録する一方で、企業別のシェア争いはさらに激しさを増していく。日経テレコンのPOSランキングより試算したノンアルコールビールの企業別シェアは、「フリー」の登場から2010年度まではキリンビールが50%以上を占めていたと考えられる。しかし、2011年からは「オールフリー」が大ヒットしたサントリービールが、2016年に至るまでシェアトップを誇っていた。加えて、「ドライゼロ」を投入したアサヒビールが2012年にはキリンビールのシェアを抜き、サントリービールと激しいシェア争いを演じることとなる。再先発のキリンビールは、直近の2019年にいたるまでシェア三位に甘んじている。

ノンアルコールビールの歴史 ~本テーマの説明~

ノンアルコールビールの歴史 ~黎明期(~2002年5月31日)~

ノンアルコールビールの歴史 ~道路交通法の改正(2002年6月1日~)~

ノンアルコールビールの歴史 ~道路交通法の改正(2007年9月1日~)~

ノンアルコールビールの歴史 ~新制度「機能性表示食品」の登場(2015年4月17日~)~

ノンアルコールビールの歴史 ~微アルコールカテゴリー創造への挑戦(2021年3月30日~)~

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